遺留分とは、被像族人の生前処分または死因処分によって奪われることのない、相続人に留保された相続財産の一定の割合をいいます。
遺留分制度には、被相続人の財産処分の自由および取引の安全と、相続人の生活保障・財産の公平な分配という相対立する要請を調整する役割があります。
遺留分権利者とは、兄弟姉妹を除く法定相続人をいいます。
ただし、「相続人」でなければなりませんから、相続欠格者(891条)、廃除された者(892条)および相続を放棄した者は遺留分を有しません。
相続人 | 配偶者 | 直系卑属 | 直系尊属 |
単独相続の場合 | 1/2 | 1/2 | 1/3 |
配偶者と共同相続の場合 | ー | 1/2 | 1/2 |
個別的遺留分率とは、遺留分権利者個々人に留保された財産上の持分的割合で、法定相続分の規定により算定されます。(1044条)
「相続開始の時において有した財産」
+「贈与した財産」
ー「債務」と算定されます。(1029条)
遺留分侵害額は、下のように算定されます。(最高裁判例H8.11.26)
侵害額=算定の基礎となる財産×当該相続人の遺留分率
ー当該相続人の特別受益額
ー当該相続人の相続取得額
+当該相続人の相続債務負担額
① 相続開始前の1年間になされた贈与(1030条)
② 当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与(1030条)
③ 特別受益にあたる贈与(1044条・903条)
遺留分権利者およびその承継人は、各々単独で各自の遺留分を保全するのに必要な限度で被相続人のなした遺贈または贈与の減殺を請求できます。(1031条)
遺留分を害する被相続人の処分が当然に無効となるわけではありません。(最高裁判例S25.4.28)
なお、寄与分について減殺請求することはできません。(904条の2)
遺留分減殺請求権は形成権であって、その権利の行使は受贈者または受遺者に対する意思表示によってすれば足り、必ず島裁判上の請求による必要はありません。(最高裁判例S41.7.14)
減殺の順序
贈与は、遺贈を減殺した後でなければ、減殺することができません。(1033条)
そして、贈与の減殺は、後の贈与から順次前の贈与に対して行います。(1035条)
なお、負担付き贈与は、その目的の価額から負担の価額を控除したものについて、その減殺を請求することができます。(1038条)
遺贈の減殺の割合
遺贈は、その目的の価額の割合に応じて減殺します。
ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思にしたがいます。(1034条)
減殺を受けるべき受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰します。(1037条)
減殺を受けるべき受贈者の無資力のために、遺留分権利者が事実上減殺の利益を受けることができない場合においても、遺留分権利者はさらに次順位において減殺を受けるべき受贈者に対して減殺請求権を行使して満足を図ることはできません。
減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始および減殺すべき贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅します。(1042条)
なお、「遺留分権利者が、相続の開始および減殺すべき贈与または遺贈があったことを知った時」とは、遺留分権利者が単に相続開始および贈与・遺贈があったことを知るだけでなく、それらが遺留分を侵害して減殺し得べきことを知った時とされています。(大阪高裁判決M38.4.26)
相続開始前後を問わず、遺留分は放棄することができます。ただし、相続開始前の放棄は家庭裁判所の許可を要します。(1043条)
なお、共同相続人の1人が遺留分を放棄しても、他の各共同相続人の遺留分はそれによって増加しません。
遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、これを第三者に譲渡するなど権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き、債権者代位の目的とすることができません。(最高裁判例H13.11.22)
減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければなりません。(1040条)
つまり、遺留分減殺請求の前に目的物の転得者が現れていた場合、遺留分を侵害された相続人は転得者に減殺請求することはできず、目的物を譲渡した受贈者・受遺者に対して価格弁償を請求できるにとどまるのが原則です。
ただし、転得者が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は、これに対しても減殺を請求することができます。受贈者が贈与の目的につき権利を設定した場合も同様です。(1040条)
受贈者および受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与または遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができます。(1041条)
遺留分の減殺について、価額による弁償によって目的物自体の返還義務を免除した規定です。
一部財産のみの価額弁償(最高裁判例H12.7.11)
受贈者または受遺者は、減殺された贈与または遺贈の目的たる各個の財産について、価額を弁償してその返還義務を免れることができます。
相続財産全部の包括遺贈がされた場合であっても、特定の財産を選択して価額弁償することができます。
現実の履行・履行の提供(最高裁判例S54.7.16)
受贈者が1041条の規定によって遺贈の目的の返還義務を免れるためには、価額の弁償の現実の履行またはその履行の提供を要し、単に価額の弁償をすべき旨の意思表示を示しただけでは足りません。