遺言は、民法という法律に規定されています。以下、民法の定めにしたがって説明していきます。
遺言に関する法律の規定をご覧になりたい方は、【書庫】をご覧ください。
【書庫】民法 第5編 相続 第7章 遺言は【こちら】
遺言は、民法に定める方式に従わなければ、することができません。(960条)
遺言制度は、一定の事項について遺言者の死後の法律関係が、遺言で定められたとおりに実現することを、法的に保障する制度です。
遺言とは、遺言者の死亡とともに一定の効果を発生させることを目的とする、相手方のない単独行為をいいます。
遺言の解釈にあたっては、できるだけ遺言の効力を維持し、遺言者の真意を探求すべきです。
また、遺言書の記載のみに依拠して遺言者の条項の文言を形式的に解釈すべきではなく、遺言書の全記載との関連、遺言者作成当時の事情および遺言者の置かれていた状況などを考慮すべきです。(最高裁判例S58.3.18)
受遺者の選定を遺言執行者に委託した遺言も、有効となりえます。(最高裁判例H元.1.19)
遺言には制限行為能力者制度の適用がありません。(962条)
遺言者は、包括または特定の名義で、その財産の全部または一部を処分することができます。ただし、遺留分に関する規定に違反することはできません。(964条)
964条は、遺言による財産処分、つまり遺贈ができること、遺贈には包括遺贈と特定遺贈があることを規定しています。
遺贈とは、遺言による、財産の無償譲渡をいいます。
包括遺贈とは、遺産の全部またはその一定割合を示してする遺贈をいいます。
包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有します。(990条)
ただし、包括受遺者は相続人自身ではないので、これとまったく同一の権利義務を有するわけではありません。
例えば、遺贈が効力を生じる以前に包括受遺者が死亡しても代襲相続は生じません。
特定遺贈とは、特定の具体的な財産的利益の遺贈をいいます。
受遺者とは、遺贈によって利益を受ける者をいいます。
遺贈に関しては、胎児に受遺能力があります。(965条・886条)
また、受遺者に一定事由があれば、受遺欠格になります。(965条・891条)
受遺者は、遺贈の効力発生の時に生存していることを要します。これを同時存在の原則といいます。法人でも構いません。
遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じません。(994条)
遺贈義務者とは、遺贈を実行すべき義務を有する者をいいます。
放棄
特定遺贈の受遺者は、遺言者の死亡後、、いつでも放棄することができます。(986条)
この放棄は、受遺者の死亡の時にさかのぼってその効力を生じます。(986条)
一方、包括遺贈は915条以下の、相続の放棄の規定にしたがいます。(990条)
撤回
遺贈の承認・放棄は撤回できません。(989条)
遺贈の承認・放棄はその利害の関するところが大きく、一度承認・放棄をした後これを撤回するようなことがあれば利害関係人が不慮の損害を被るおそれがあるからです。
もっとも、制限行為能力、詐欺・強迫等による取消しは989条により認められます。
ただし、期間制限があります。(6か月、10年)
負担付き遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負います。(1002条)
遺言者の最終意思を尊重するため、自由に撤回できます。(1022条、1026条)
遺贈 | 死因贈与 | |
法的性質 | 相手方のない単独行為 | 契約 |
行為能力 | 15歳以上は、単独でできる(961条) | 20歳以上は、単独でできる(554条) |
効力の発生要件 | 遺言者の死亡(985条) | 贈与者の死亡(554条) |
撤回の可否 | いつでも撤回できる(1022条、1023条) | いつでも撤回できる(1022条、1023条) |
遺留分減殺請求 | ○(1031条) | |
代理 | × | ○ |
負担付き | ○(1002条) | ○(551条) |
普通の方式による遺言は、自筆証書、公正証書、または秘密証書によってしなければなりません。(967条)
遺言は、2人以上の者が、同一の証書ですることができません。(975条)
2人以上の者が、1通の遺言書で共同に遺言することは、複雑な法律関係を生じさせるだけでなく、それぞれが自由に撤回できなくなってしまいます。
ですから、遺言者の最終意思に法的効果を認める遺言制度の趣旨に反するので禁止されています。
なお、ひと綴りの遺言書において複数名の遺言がなされているが、両者を容易に切り離すことができるときには共同遺言にはあたりません。(最高裁判例H5.10.19)
自筆証書遺言とは、遺言者が遺言書の全文・日付・氏名を自署し、これに押印することによって成立する遺言をいいます。(968条)
自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じません。(968条)
という方式の遺言をいいます。(969条)
かつては、声を発することができない者や耳が聞こえない者が公正証書遺言の方式を採ることができませんでした。
しかし、声を発することができない者や耳が聞こえない者にも等しく公正証書遺言の方式を利用する権利があると考えられるようになりました。
そこで、1999年の民法改正で、通訳人による申述や自署による方法を認めることにより、これらの者も公正証書遺言の方式を利用できるようになりました。(969条の2)
という方式の遺言をいいます。(970条)
氏名・日付以外を他人がワープロで印字した場合(最高裁判例H14.9.24)
秘密証書によって遺言をするにあたり、遺言者が氏名および日付を自署し、その他は遺言者以外の者がワープロを操作して、市販の遺言書の書き方の文例に沿って入力して印字した場合、970条でいうところの「筆者」は、ワープロを操作して本件遺言書の表題および本文を入力し印字した者である。
秘密証書による遺言は、方式に欠けるものがあっても、自筆証書による遺言の方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有します。(971条)
方式に違反したため効力が生じない秘密証書による遺言であっても、遺言者の最終意思をできるだけ尊重しようという趣旨です。
1999年の民法改正により、声を発することができない者が秘密証書遺言をなす場合、通訳人の通訳により申述することも可能になりました。(972条)
伝染病隔離者・船舶遭難者など、かなり特殊なケースについて規定されいています。
あまり深入りしない方がいいでしょう。
原則として遺言者の死亡時から生じます。(985条)
ただし、遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就したときからその効力を生じます。
なお、遺言者の生存中は、遺贈を原因として仮登記することはできません。遺言無効の訴えを提起することも認められません。(最高裁判例H11.6.11)
遺言者が死亡するまでは何の法律関係も生じず、期待権もないからです。
遺言者の死亡により、特定財産の目的たる財産は受遺者に移転します。(大阪高裁判例T5.11.8)
ただし、遺贈の効力を第三者に対抗するためには、対抗要件を具備する必要があります。(最高裁判例S39.3.6)
遺言内容を実現することを、一般に遺言の執行と呼びます。
その手続きとしては、遺言の内容そのものを実現するためのものと、その準備のためのものとがあります。
遺言執行の準備手続きについて、民法は、遺言者の提出・検認・開封などを定めています。
「検認」は、遺言の方式に関する一切の事実を調査して遺言書の状態を確定しその現状を明確にするものであり、遺言の実体上の効果を判断するものではありません。(大阪高裁決定T4.1.16)
遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければなりません。
遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とします。(1004条)
遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行した者は、5万円以下の過料に処せられます。(1005条)
また、封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いがなければ、開封することはできません。(1004条)
家庭裁判所外においてその開封をした者は、5万円以下の過料に処せられます。(1005条)
なお、公正証書による遺言については、検認手続きは不要です。(1004条)
遺言執行者とは、遺言者に代わり、遺言内容実現に向け必要な一切の事務を執り行う者をいいます。
遺言執行者は、相続人の代理人とみなされます。(1015条)
遺言執行者の指定および指定の委託は、遺言によってのみ成し得ます。(1006条)
遺言執行者は複数でもかまいません。この場合、その任務の執行は、原則として過半数で決します。(1017条)
なお、未成年者および破産者は、遺言執行者となることができません。(1009条)
遺言執行者によって管理される相続財産を相続人が処分した場合、絶対的無効となります。(1013条、最高裁判例S62.4.23)
遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければなりません。(1007条)
遺言執行者は、像族財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。(1012条)
遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができません。(1013条)
なお、遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とします。(1021条)
また、遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければなりません。(1011条)
家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができます。
ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りではありません。(1018条)
遺言者は、いつでも、遺言の方式にしたがって、その遺言の全部または一部を撤回することができます。(1022条)
遺言は、遺言者の死亡まで効力は発生しませんから、遺言の内容に拘束されるいわれはありませんし、撤回により第三者の権利が害されるわけではありません。
そこで、遺言者の最終的な意思を尊重するために、遺言撤回の自由の原則が採用されました。
なお、遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができません(1026条)
撤回は遺言の方式にしたがってなされることを要しますが、撤回される遺言と同一の方式でなくてもかまいません。
1022条の規定は、方式に関する部分を除いて、死因贈与にも準用されます。(最高裁判例S47.5.25)
ただし、負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付き贈与契約に基づいて、受贈者が約旨にしたがい負担の全部またはそれに類する程度の履行をした場合においては、特段の事情がない限り、遺言の取消しに関する民法1022条、1023条の各規定は準用されません。(最高裁判例S57.4.30)
前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます。(1023条)
遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合も同様とします。
1023条は法律行為による撤回です。
遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなされます。
遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とします。(1024条)
1024条は事実行為による撤回です。
撤回行為をさらに撤回・取消した場合、かつて撤回された第一の遺言が復活するかは、遺言者の死亡後に生じる問題なので、紛争になるおそれがあります。
そこで1025条は、「撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、または効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が詐欺または強迫による場合には、この限りでない。」と解決の基準を示しています。
なお、判例は、「遺言書の記載に照らし、遺言者の意思が原文言の復活を希望するものであることが明らかなときは、民法1025条但書の法意にかんがみ、遺言者の真意を尊重して原遺言の復活を認めるのが相当」であるとしました。(最高裁判例H9.11.13)