1 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続について、単純もしくは限定の承認または放棄をしなければならない。
ただし、この期間は、利害関係人または検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認または放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
相続人が相続の承認または放棄をしないで死亡したときは、前条第1項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
相続人が未成年者または成年被後見人であるときは、第915条第1項の期間は、その法定代理人が未成年者または成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
1 相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。
ただし、相続の承認または放棄をしたときは、この限りでない。
2 家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。
3 第27条から第29条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。
1 相続の承認および放棄は、第915条第1項の期間内でも、撤回することができない。
2 前項の規定は、第1編(総則)および前編(親族)の規定により相続の承認または放棄の取消しをすることを妨げない。
3 前項の取消権は、追認をすることができる時から6か月間行使しないときは、時効によって消滅する。
相続の承認または放棄の時から10年を経過したときも、同様とする。
4 第2項の規定により限定承認または相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
① 相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき。
ただし、保存行為および第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
② 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認または相続の放棄をしなかったとき。
③ 相続人が、限定承認または相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部または一部を隠匿し、私にこれを消費し、または悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。
ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の証人をした後は、この限りでない。
相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務および遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。
相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
相続人は、限定承認をしようとするときは、第915条第1項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。
相続人が限定承認をしたときは、その被相続人に対して有した権利義務は、消滅しなかったものとみなす。
1 限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならない。
2 第645条、第646条、第650条第1項および第2項ならびに第918条第2項および第3項の規定は、前項の場合について準用する。
1 限定承認者は、限定承認をした後5日以内に、すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。以下同じ)および受遺者に対し、限定承認をしたことおよび一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。
この場合において、その期間は、2か月を下ることができない。
2 前項の規定による公告には、相続債権者および受遺者がその期間内に申出をしないときは弁済から除斥されるべき旨を公告しなければならない。
ただし、限定承認者は、知れている相続債権者および受遺者を除籍することができない。
3 限定承認者は、知れている相続債権者および受遺者には、格別にその申出の催告をしなければならない。
4 第1項の規定による公告は、官報に掲載してする。
限定承認者は、前条第1項の期間の満了前には、相続債権者および受遺者に対して弁済を拒むことができる。
第927条第1項の期間が満了した後は、限定承認者は、相続財産をもって、その期間内に同項の申出をした相続債権者その他知れている相続債権者に、それぞれの債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。
ただし、優先権を有する債権者の権利を害することはできない。
1 限定承認者は、弁済期に至らない債権であっても、前条の規定にしたがって弁済をしなければならない。
2 条件付きの債権または存続期間の不確定な債権は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価にしたがって弁済をしなければならない。
限定承認者は、前2条の規定にしたがって各相続債権者に弁済した後でなければ、受遺者に弁済することができない。
前3条の規定にしたがって弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者は、これを競売に付さなければならない。
ただし、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価にしたがい相続財産の全部または一部の価額を弁済して、その競売を止めることができる。
相続債権者および受遺者は、自己の費用で、相続財産の競売または鑑定に参加することができる。
この場合においては、第260条第2項の規定を準用する。
1 限定承認者は、第927条の公告もしくは催告をすることを怠り、または同条第1項の期間内に相続債権者もしくは受遺者に弁済をしたことによって他の相続債権者もしくは受遺者に弁済をすることができなくなったときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第929条から第931条までの規定に違反して弁済を受けたときも、同様とする。
2 前項の規定は、情を知って不当に弁済を受けた相続債権者または受遺者に対する他の相続債権者または受遺者の求償を妨げない。
3 第724条の規定は、前2項の場合について準用する。
第927条第1項の期間内に同項の申出をしなかった相続債権者および受遺者で限定承認者に知れなかったものは、残余財産についてのみその権利を行使することができる。
ただし、相続財産について特別担保を主する者は、この限りでない。
1 相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 前項の相続財産の管理人は、相続人のために、これに代わって、相続財産の管理および債務の弁済に必要な一切の行為をする。
3 第926条から前条までの規定は、第1項の相続財産の管理人について準用する。
この場合において、第927条第1項中「限定承認をした後5日以内」とあるのは、「その相続財産の管理人の選任があった後10日以内」と読み替えるものとする。
限定承認をした共同相続人の1人または数人について第921条第1号または第3号に掲げる事由があるときは、相続債権者は、相続財産をもって弁済を受けることができなかった債権額について、当該共同相続人に対し、その相続分に応じて権利を行使することができる。
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
1 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
2 第645条、第646条、第650条第1項および第2項ならびに第918条第2項および第3項の規定は、前項の場合について準用する。