相続の放棄とは、相続人が、3か月以内にその自由意思によって一定の手続きにしたがって、全面的に遺産の承継を拒否することをいいます。
相続の放棄は、家庭裁判所への申述によってなされます。(938条)
3か月の熟慮期間中になすこと、相続財産の調査を許されることは、限定承認の場合と同じです。
しかし、相続財産の目録の作成は必要ではありません。(915条、924条参照)
相続を放棄した場合は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生じ、放棄した者は、その相続について初めから相続人とならなかったものとみなされます。(939条)
つまり、相続人は、相続の放棄をした場合には、相続開始時にさかのぼって相続開始がなかったのと同じ地位に立ちます。
相続放棄の効力は、登記等の有無を問わず、何人に対してもその効力を生じます。(最高裁判例S42.1.20)
遺産分割とは異なり、第三者保護規定はありません。(909条参照)
なお、相続の放棄は、詐害行為取消権行使の対象となりません(最高裁判例S49.9.20)
また、相続の放棄は、それによって相続債権者に損害を加える結果となり、また放棄者がそれを目的とし、もしくは認識してなされたとしても、民法が相続放棄の自由を認めている以上、無効とはなりません。(最高裁判例S42.5.30)
相続人は、相続放棄をすれば、相続財産についての管理を免れるはずです。
しかし、放棄により直ちに管理義務が途絶えると、管理を始めていない相続人、相続債権者、その他社会経済上において不利益となるので、放棄者に自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財残の管理を継続する義務を認めています。(940条)
財産分離とは、相続開始後に相続債権者や受遺者または相続人の債権者の請求によって、相続財産と相続人の固有財産とを分離させる裁判上の処分をいいます。
無資力者に相続されると困るとき、相続債権者または受遺者の請求によります。(941条~948条)
過大な債務を相続されると困るとき、相続人の債権者の請求によります。(949条)
ある人が死亡したとき、相続人のあることが明確でないことがあります。
このような場合、一方では相続人を探し出す必要があります。同時に、相続人が現れるまでの間、財産を管理しまたはもし現れなければ、最終的に清算しなければなりません。
この2つの目的を実現しようとするのが、相続人の不存在の制度です。
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は法人とします。(951条)
「相続人のあることが明らかでないとき」とは、相続開始時において相続人の有無が不明なことをいいます。
戸籍上は相続人が存在するが、その相続人が行方不明や生死不明の場合には、951条の手続きではなく、不在者の財産管理・失踪宣告の規定によります。(25条~)
文言上は「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者」と定められています。
しかしこれらは例示に過ぎず、いかなる者が特別縁故者であるかは、裁判所の裁量に委ねられています。
共有者ABCのうち、Aが相続人なくして死亡した場合に、特別縁故者Dがいるとき、特別縁故者の相続財産に対する期待を保護すべく958条の3が優先され、Aの持分はDに帰属します。(最高裁判例H元.11.24)
処分されなかった相続財産は、国庫に帰属します。(959条)