指定分割(908条)
遺言による遺産の分割方法の指定がある場合には、それにしたがいます。
協議分割(907条)
共同相続人の協議による遺産の分割です。
調停分割(家事事件手続法244条以下)
分割の審判に先立って、家庭裁判所によって行われる遺産の分割です。
審判分割(907条)
相続人の申し立てによって、家庭裁判所が行う遺産の分割です。
被相続人の可分債務は、遺産分割の対象となりません。共同相続人に当然に分割して承継されます。(大阪高裁判決T10.10.20)
共同相続人は、被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができます。(907条)
共同相続人を除外したり、相続人でない者を加えてなされた分割は無効です。
※ 遺産分割後に非嫡出子が認知された場合、すでになされた遺産分割は有効です。(910条)
遺産分割協議委の解除の可否
共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の1人が協議において負担した債務を履行しないときでも、その債務を有する相続人は、541条によって協議を解除することはできません。(最高裁判例H元.2.9)
一方、共同相続人は、すでに成立している遺産分割協議につき、その全部または一部を全員の合意により解除したうえで、あらためて分割協議を成立させることができます。(最高裁判例H2.9.27)
遺産分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができます。
被相続人は、遺留分に関する規定に反しない限り、自由にその財産を処分することができますが、遺産分割についても同様です。(908条)
また、被相続人は最も実情に即した人が分割を行うことができる地位にあるので、相続開始後において共同相続人間に生ずるおそれのある無用な紛争を防止するためにも、被相続人に遺産の分割の方法の指定を許すのが望ましいと考えられます。
そこで、908条は、遺言による、遺産の分割方法の指定、第三者に対する分割方法指定の委託および分割禁止(最長5年)という、遺産分割にかかる3種の遺言事項について規定しています。
「相続させる」要旨の遺言
特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言は、遺言者の記載から、その要旨が遺贈であることが明らかであるかまたは遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきでなく、遺産の分割の方法を定めたものであるとされています。
この場合、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情がない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継され、遺産分割または審判を経る余地はありません。(最高裁判例H3.4.19)
「相続させる」ものとされた推定相続人の死亡
「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言にかかる条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情および遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情がない限り、その効力を生ずることはないと解するのが相当であるとしています。(最高裁判例H23.2.22)
分割方法の指定と異なる遺産分割
分割農法の指定があっても、遺言執行者が存在しない限り、共同相続人全員の合意によって指定と異なる分割をすることも可能であり、この種の分割も無効とはいえないと解されています。
分割の効果は、相続開始時に遡及し、分割によって取得した各個の権利は、相続開始の時からその相続人に帰属していたことになります。
分割の遡及効は、相続開始後、分割前に個々の相続財産の持分を取得した第三者の権利を害することができません。
この場合、第三者は、善意・悪意を問いませんが、第三者が権利を主張するには、対抗要件(177条、178条)が必要です。
相続財産中の不動産につき、遺産分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は、登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対して、自己の権利の取得を対抗できません。(最高裁判例S46.1.26)
相続の開始後、認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有します。(910条)
遺産分割の安定性と非嫡出子の保護との調和を図り、遺産分割自体は有効であるとしつつ、遺産分割後に認知された非嫡出子には価額の償還請求による救済を与えています。
各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負います。(911条)
相続人は、その意思によって、
行為能力の要否
相続の承認・放棄は財産上の行為です。したがって、相続人が承認・放棄をするには行為能力が必要です。
要式行為
相続の承認・放棄は、原則として要式行為です。
つまり、限定承認および放棄は一定の手続き(申述)を必要とします。
これに対し、単純承認は、何らの方式も必要としません。
相続開始前の意思表示
相続の承認・放棄は、相続開始後になされるべきものであり、開始前にその意思表示をしても無効です。
これに対し、遺留分の事前放棄は認められています。(1043条)
相続の承認・放棄の効力は確定的であって、いったんなした承認や放棄は、熟慮期間中でも撤回することはできません。
ただし、民法の一般規定に基づいて無効になる場合(錯誤など)や取り消せる場合(制限行為能力、詐欺・強迫)はあり得ます。
この場合、限定承認・相続放棄の取消しは、家庭裁判所に申述する必要があります。(919条)
相続の承認・放棄は、相続人が「自己のために開始があったことを知った時」から「3か月以内」にしなければなりません。
ただし、この期間は、利害関係人または検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができます。(915条)
相続の原因たる被相続人の死亡の事実を知り、それによって自分が相続人になったことを知った時から起算します。
相続人が複数いる場合には、相続人ごとに進行します。(最高裁判例S51.7.1)
なお、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じるにつき相当な理由がある場合には、相続人が相続財産の全部または一部を認識した時または通常これを認識しうべき時から起算されます。(最高裁判例S59.4.27)
相続人が相続の承認または相続の放棄をしないで死亡したときは、その者の相続人(後相続人)は、前相続人の承認・放棄権を承継取得します。
後相続人は、第1、第2の両相続を同時になすことができます。これを再転相続といいます。
再転相続の場合、熟慮期間は、後相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算します。(916条)
熟慮期間は、その法定代理人が未成年者または成年被後見人のために相続があったことを知った時から起算します。(917条)
相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければなりません。
ただし、相続の承認または放棄をしたときは、この限りではありません。(918条)
単純承認とは、相続人が、被相続人の権利義務を全面的に承継することを内容として相続を承認することをいいます。(920条)
民法は、この単純承認を相続の本来的形態と位置付けています。
次の場合には、相続人は、単純承認したものとみなします。(921条)
相続人が自己のために相続が開始した事実を知りながら、相続財産を処分したか、少なくとも相続人が被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえてその処分をしとことを要します。(最高裁判例S42.4.27)
代物弁済(大阪高裁判決S12.1.30)、債権の取り立て(最高裁判例37.6.21)は、処分行為にあたります。
相続人が限定承認または相続の放棄をした後でも、相続財産の全部または一部を隠匿し、私に消費し、または悪意で相続財産の目録中に記載しなかったような背信行為がある場合は、その相続人は単純承認したものとみなされます。
なお、921条3号にいう「相続財産」には相続債務も含まれ、限定承認をした相続人が消極財産を悪意で目録中に記載しなかったときにも、単純承認したものとみなされます。(最高裁判例61.3.20)
限定承認とは、被相続人の債務および遺贈を、相続によって得た積極財産まで弁済することを条件として、相続を承認する意思表示をいいます。(922条)
相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができます。(923条)
また、相続人は、限定承認をしようとするときは、915条1項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければなりません。(924条)
限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければなりません。(926条)
相続の放棄とは、相続人が、3か月以内にその自由意思によって一定の手続きにしたがって、全面的に遺産の承継を拒否することをいいます。
相続の放棄は、家庭裁判所への申述によってなされます。(938条)
3か月の熟慮期間中になすこと、相続財産の調査を許されることは、限定承認の場合と同じです。
しかし、相続財産の目録の作成は必要ではありません。(915条、924条参照)
相続を放棄した場合は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生じ、放棄した者は、その相続について初めから相続人とならなかったものとみなされます。(939条)
つまり、相続人は、相続の放棄をした場合には、相続開始時にさかのぼって相続開始がなかったのと同じ地位に立ちます。
相続放棄の効力は、登記等の有無を問わず、何人に対してもその効力を生じます。(最高裁判例S42.1.20)
遺産分割とは異なり、第三者保護規定はありません。(909条参照)
なお、相続の放棄は、詐害行為取消権行使の対象となりません(最高裁判例S49.9.20)
また、相続の放棄は、それによって相続債権者に損害を加える結果となり、また放棄者がそれを目的とし、もしくは認識してなされたとしても、民法が相続放棄の自由を認めている以上、無効とはなりません。(最高裁判例S42.5.30)
相続人は、相続放棄をすれば、相続財産についての管理を免れるはずです。
しかし、放棄により直ちに管理義務が途絶えると、管理を始めていない相続人、相続債権者、その他社会経済上において不利益となるので、放棄者に自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財残の管理を継続する義務を認めています。(940条)
財産分離とは、相続開始後に相続債権者や受遺者または相続人の債権者の請求によって、相続財産と相続人の固有財産とを分離させる裁判上の処分をいいます。
無資力者に相続されると困るとき、相続債権者または受遺者の請求によります。(941条~948条)
過大な債務を相続されると困るとき、相続人の債権者の請求によります。(949条)
ある人が死亡したとき、相続人のあることが明確でないことがあります。
このような場合、一方では相続人を探し出す必要があります。同時に、相続人が現れるまでの間、財産を管理しまたはもし現れなければ、最終的に清算しなければなりません。
この2つの目的を実現しようとするのが、相続人の不存在の制度です。
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は法人とします。(951条)
「相続人のあることが明らかでないとき」とは、相続開始時において相続人の有無が不明なことをいいます。
戸籍上は相続人が存在するが、その相続人が行方不明や生死不明の場合には、951条の手続きではなく、不在者の財産管理・失踪宣告の規定によります。(25条~)
文言上は「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者」と定められています。
しかしこれらは例示に過ぎず、いかなる者が特別縁故者であるかは、裁判所の裁量に委ねられています。
共有者ABCのうち、Aが相続人なくして死亡した場合に、特別縁故者Dがいるとき、特別縁故者の相続財産に対する期待を保護すべく958条の3が優先され、Aの持分はDに帰属します。(最高裁判例H元.11.24)
処分されなかった相続財産は、国庫に帰属します。(959条)