相続の豆知識①

相続とは

相続とは、特定の故人の死亡により、その者の権利義務が、その者と身分関係を有する相続人に包括的に承継されることをいいます。

相続開始の原因

人の死亡(882条)

相続は被相続人が死亡した瞬間に、当然に開始します。相続人がこれを知っていたか否かを問いません。

失踪宣告(31条)

相続回復請求権

相続による承継は、目的物の占有・支配を必ずしも伴わない観念的な権利変動であるため、真正の相続人でない者が表見的な相続人資格を用いることによって相続人の権利を侵害することがあり得ます。

 

このような場合に、真正相続人が表見相続人に対して正当な相続権を主張して侵害を排除し、相続目的物の占有・支配を回復する制度として、相続回復請求権が規定されています。

 

相続回復請求権は、相続人またはその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅します。(884条)

 

相続開始の時から20年を経過したときも、同様です。

相続財産に関する費用

相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁します。ただし、相続人の過失によるものは、この限りではありません。(885条)

 

相続財産に関する費用には、例えば、遺産分割までの管理費用や固定資産税、管理費があります。

相続人

子およびその代襲者等の相続権

趣旨

887条は、子またはその代襲者が第1順位の相続人となることを規定しています。

 

代襲相続は、もし被代襲者が相続していれば、後に相続することにより財産を承継し得たはずだという、代襲者の期待を保護することが、公平に適すると考えられることに基づいています。

養子

養子は、実方と養方の双方に対して第1順位の相続人となります。

非嫡出子

非嫡出子は、母に対しては常に第1順位の相続人となります。

 

一方、父に対しては、父の任意認知(779条、781条)または裁判認知(787条)があれば第1順位の相続人となります。

 

死後認知があれば(787条)、認知の効力は出生時にさかのぼるため(784条)、子の相続権が認められて他の相続人に対し自己の相続分を主張できます。(910条)

胎児

胎児は、相続については、既に生まれたものとみなします。(886条)

 

出生によって初めて人が権利能力を有するという原則(3条)の例外として取り扱っています。

順位

子が数人あるときは、みな同順位となります。(900条)

継子と継親の関係

継子(先妻との間の子)は1親等の姻族であって血族たる子ではないので、継親(後妻)に対して相続人とはなりません。

 

夫が死亡した場合の後妻の連れ子も相続人となりません。

代襲相続

代襲相続とは

相続人となるべき者が相続開始時に死亡その他の事由により相続権を失っているとき、その者の直系卑属がその者と同順位で相続人になることをいいます。

被代襲者

被相続人の子(887条)

縁組前に生まれた養子の子(連れ子)は、代襲相続人とはなりません。

 

縁組後に生まれた子であっても、離縁のときは養親との血縁関係が終了するので、代襲相続権を有しません。(889条)

 

兄弟姉妹(889条)

代襲原因

相続開始以前の死亡 
同時死亡の場合は、代襲相続が認められます。(32条の2)

欠格

相続権喪失の効果は相続開始時にさかのぼるので、相続開始後に欠格事由が生じた場合でも代襲相続は認められます。(891条)


廃除

廃除とは、被相続人に対する虐待、重大な侮辱、その他著しい非行を理由として、遺留分を有する推定相続人をその地位から除外することをいいます。(892条、893条)

再代襲

再代襲とは、代襲者(孫)に代襲原因(死亡など)が生じた場合にさらに代襲相続(曾孫が相続)が生じた場合をいいます。

 

孫の子(直系卑属)のみ、再代襲が認められます。(887条)

 

兄弟姉妹の子には再代襲は認められません。(889条)


直系尊属および兄弟姉妹の相続権

直系尊属

直系尊属は第2順位の相続人であるから、被相続人に子またはその代襲相続人たる直系尊属がいる場合には、相続人となりません。

 

もっとも、これらの者が、①すべて欠格者であるか、廃除された場合、②相続を放棄した場合には、直系尊属が相続人となります。

 

なお、直系尊属の中では、親等の近い者が優先的に相続人となります。(889条)

 

例えば、被相続人の父が既に死亡しており、母と父方の祖母がいるときは、母だけが相続人となります。

兄弟姉妹

第3順位の相続人であり、第1、第2順位の相続人がいないときに相続人となります。

配偶者の相続権

配偶者の相続権の趣旨

890条は、配偶者、とりわけ妻の立場の尊重という趣旨から、被相続人の生存配偶者は常に相続人となる旨を規定しています。

 

配偶者相続権の根拠としては、

  1. 婚姻中の財産の清算、
  2. 生存配偶者の扶養ないし生活保障

が指摘されています。

配偶者の相続権の注意点

配偶者とは、法律上の配偶者をいい、内縁の妻を含みません。(判例)

 

ただし、内縁の妻が特別縁故者として保護されることはあり得ます。(958条の3)

相続欠格

相続欠格の要旨

891条は、相続欠格について規定しています。

 

被相続人等の生命または被相続人の遺言行為に対し、故意に違法な侵害をした相続人は、その行為に対する民事上の制裁ないし私法罰として、法律上当然に相続人たる資格を失います。

欠格事由

  1. 故意に被相続人または相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡するに至らせ、または至らしめようとしたために、刑に処せられた者
  2. 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者
  3. 詐欺または強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、取り消し、または変更することを妨げた者
  4. 詐欺または強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、または変更させた者
  5. 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した者

推定相続人の廃除

推定相続人の廃除の要旨

892条は、一定の廃除事由がある場合に、被相続人の意思によって、遺留分を有する推定相続人から遺留分権を否定して完全にはく奪することを認めています。

廃除の要件

  1. 廃除される者が、遺留分を有する推定相続人であること 兄弟姉妹意外の相続人(1028条)
  2. 廃除原因があること 例えば、虐待、重大な侮辱、著しい非行
  3. 家庭裁判所に廃除の請求をすること 遺言によって推定相続人を廃除することもできます。この場合、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければなりません。(893条)
  4. 廃除の審判または調停があること

推定相続人の廃除の取消し

被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができます。(894条)

相続の効力総則

相続の一般的効力

相続の趣旨

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権威義務を承継します。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りではありません。

 

896条は、相続による権利の承継が包括承継であることを規定しています。つまり、相続によりこれまで被相続人が主体であった法律関係が全体として新たな主体(相続人)に承継されるという、相続法の基本原理を示しています。

 

 

一身専属権

被相続人の一身に専属する権利義務とは、被相続人だけに帰属して相続人に帰属することのできない性質を有する権利義務をいいます。

 

例えば、代理権(111条)、定期贈与(552条)、使用借権(599条)、被雇用者の地位、委任契約による事務処理債務(653条)、組合員の地位(679条)、終身定期金契約(689条)、生活保護受給権、扶養請求権がこれにあたります。

祭祀に関する権利の承継

系譜、祭具および墳墓の所有権は、慣習にしたがって祖先の祭祀を主宰すべき者が承継します。ただし、被相続人の指定にしたがって祖先の祭祀を主宰すべきものがあるときは、その者が承継します。(897条)

共同相続の効力

共同相続の効力総論

相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属します。(898条)

 

共有の法的性質については、249条の共有と同じ意味に解します。(最高裁判例S30.5.31)

 

したがって、各相続人は個々の財産に持分を有し、具体的持分の処分、分割が認められます。

承継の割合

各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します。(899条)

債権

  • 可分債権 相続分に応じて相続開始と同時に法律上当然に共同相続人に分割されます。(最高裁判例S29.4.8)
  • 不可分債権 遺産分割までは、共同相続人全員に債権が帰属し、分割帰属しません。つまり、債権者である共同相続人は共同して、または各債権者はすべての債権者のために履行を請求し得ます。(428条、429条)

債務

  • 可分債務 法律上当然に分割され、各相続人は相続分に応じて責任を負えばよいとされています。(大阪高裁決定S5.12.4)
  • 連帯債務 連帯債務者の1人が死亡し、その相続人が複数ある場合に、相続人らは被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となります。(最高裁判例S34.6.19)
  • 不可分債務 遺産分割の前後を通じて各相続人が全部についての履行の責めを負います。

金銭

当然に分割されることなく共有とされ、相続人は、遺産分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることができません。(最高裁判例H4.4.10)

 

預金債権

共同相続された普通預金債権、通常貯金および定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となります。(最高裁決定H2812.19)

相続分

法定相続分

900条、901条は、同順位の相続人が複数あって共同相続となる場合の、各相続人の相続分を定めています。

相続人 相続分
配偶者:子 1/2:1/2
配偶者:直系尊属 2/3:1/3
配偶者:兄弟姉妹 3/4:1/4

なお、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の1/2とされています。

遺言による相続分の指定

遺言による相続分の指定の要旨

被相続人は、法定相続分に拘束されず、遺留分の規定に反しない限り、遺言によって共同相続人の相続分を自ら指定し、またはその指定を第三者に委託することができます。(902条)

 

相続分の指定は、相続分の割合につき法定相続分に優先します。したがって、相続分の指定があるときは、法定相続分の規定(900条、901条)は適用されないことになります。

 

なお、被相続人が、共同相続人の中の1人もしくは数人の相続分のみを定め、またはこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、法定相続分の規定にしたがいます。

遺言による相続分の指定の効果

  • 被相続人が自ら定めたときは、遺言が効力を生じた時から、相続分の指定が効力を生じます。(985条) 第三者に委託したときは、遺言が効力を生じた後に、第三者が指定をなすことにより、相続開始の時にさかのぼって効力を生じます。
  • 遺留分に反する指定があった場合の効果については、当然には無効とならず、被侵害者(遺留分権利者)の請求によって減殺されます(1031条、最高裁判決S37.5.29)
  • 債務については、法定相続分と異なる指定がなされても債権者に対抗できません。一方、債権者の方から指定相続分にしたがった請求をすることはできます。
  • 法定相続分を下回る相続分の指定を受けた者が、法定相続分に応じた共有持分権を第三者に譲渡し移転登記をしても、登記には公信力がないので、第三者は指定相続分に応じた持分しか取得できません。(最高裁判例H5.7.19)

特別受益者の相続分

特別受益者の相続分の要旨

共同相続人の中に、被相続人から婚姻、養子縁組のため、もしくは生計の資本としての生前贈与または遺贈を受けている者があることがあります。

 

これらを考慮せずに相続分を計算したのでは、このような特別受益者は、二重の利得をすることになり不公平ですし、被相続人の意思に反することにもなります。

 

そこで、このような場合には、特別受益者は、計算上特別受益を遺産に戻すべきものとしています。

特別受益とは

婚姻・養子のための贈与

例えば、持参金、嫁入り道具、支度金

 

生計の資本

例えば、農家の次男が田畑の分与を受けた場合、子が別の世帯を持つときに土地その他の財産の分与を受けた場合、商売のための営業資金の贈与

 

死亡保険金請求権

養老保険契約に基づいて保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権または死亡保険金は、903条に規定する遺贈または贈与にかかる財産にあたりません。

 

 

その他

  • 贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、またはその価格の増減があっても、相続開始の時においてなお現状のままであるものとみなしてこれを定めます。(904条)
  • 遺贈または贈与の価額が、相続分の価額に等しく、またはこれを超えるときは、受贈者または受遺者は、その相続分を受けることができません。(903条)
  • 被相続人が異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲で、その効力を有します。(903条)

寄与分

寄与分の要旨

共同相続人の中に、被相続人の財産の維持または形成に特別の寄与・貢献をした者がいる場合に、そのような貢献のない他の共同相続人と同様にあつかい、法定相続分どおりに配分するのは、実質的に見て公平を欠くことになります。

 

そこで、このような場合に、相続財産の維持・形成に寄与した共同相続人について、法定相続分に寄与に相当する額を加えた財産の取得を認めて、共同相続人間の公平を図っています。

 

なお、寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができません。(904条の2)

寄与分権利者

寄与分権利者は、共同相続人の中で、被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者です。

 

共同相続人でない者は、いかに被相続人の財産の維持・形成に貢献していても、寄与分権利者とはなりえません。

寄与分の算定

共同相続人の協議で定めます。

 

協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、家庭裁判所は、寄与をした者の請求により、

  • 寄与の時期
  • 方法および程度
  • 相続財産の額
  • その他一切の事情

を考慮して、寄与分を定めます。

相続分の取戻権

共同相続人の1人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、1か月以内に、その価額および費用を償還して、その相続分を譲り受けることができます。

 

905条は、共同相続人が相続開始から遺産分割までの間に第三者に相続分を譲渡することができることを前提に、他の共同相続人はその価額および費用を償還して、相続分を取り戻すことを認めています。

 

なお、ここでいう相続分とは、包括的な相続財産全体に対して各共同相続人が有する持ち分あるいは法律上の地位を指します。

続きは【相続の豆知識②】をご覧ください。